和装履物店とは、鼻緒挿げ職人が店に常駐している専門店です。
店に草履や下駄を並べていても、その場で鼻緒を挿げたり調整できなければ、
和装履物店とは呼べないと私は考えております。
なぜなら、靴と違ってサイズが細分化されず、鼻緒のみで足に固定する和装履物は、
歩きやすいように鼻緒を挿げる技を含めて、商品であるからです。
履きやすくするためには、単に鼻緒を緩めたり、詰めるだけでなく、
鼻緒のカーブや前緒と後緒のバランスなどで、足に合わせるのが大事なのです。
鼻緒が伸びて歩きづらくなったら再調整する。
踵が減ったら新しく交換する。
このようなメンテナンスはもちろん、着物との合わせ方、TPOによる選び方など、
和装の知識も合わせてご提供できるのが、専門店だと自負しております。
残念ながら、この数年で都内の老舗和装履物店がまた数店、廃業されました。
メーカーや問屋も含め、和装履物業界の衰退ぶりは、呉服業界よりさらに深刻です。
時代の変化といってしまえばそれまでですが、もっとも大きな原因は、
「和装履物業界が自分たちの強みを客観的に理解せず、発信していない」
という点であると感じています。
私たちのように伝統的な履物をつくっている店やメーカーにとって、
カレンブロッソが出回ったことも、かなり大きく影響しています。
当初は斬新なデザインと機能性により一部で話題になったのでしょうけれど、
ある時点から呉服店や百貨店で取り扱うようになり、全国的に広まりました。
理由のひとつは「挿げる職人が必要ないから」と考えられます。
呉服屋さんや百貨店で、挿げ職人を育成し、雇用するのは大変なので、
挿げの技が必要ないカレンブロッソは「売りやすい商品」です。
一方で、全国の履物屋さんは高齢化し、後継者不足で廃業し、どんどん減っています。
お客さまが本物の草履や下駄を目にしたり手に取る機会がますますなくなり、
呉服屋さんでは売りやすいカレンブロッソを勧められる…というぐあい。
繰り返しますが、鼻緒のある和装履物は、履きやすいように挿げる技を含めての
商品です。
昔ながらの履物を作るメーカー、扱う小売店は、その一番重要な点を
強調してきませんでした。
カレンブロッソは鼻緒が伸びても挿げ職人が再調整できません。
調整できるタイプも出たようですが、メーカーに送らなければなりません。
私たち辻屋本店は「職人がその場で、お客さまの足に合わせながら調整できる」
という伝統的な和装履物の優れた点を、これからも伝えていきたいと思います。
辻屋本店の取引先メーカーは努力を重ね、雨でも履けるおしゃれなデザインの草履など
伝統的でありながら機能性という点においても改善を進めています。
こちらのブログやホームページ、メルマガやSNSで日々発信していきますので、
ぜひチェックしてみてくださいね。