1 街中で突然、着物の着方が間違っていると指摘する「着物警察」と呼ばれる人々(主に中高年女性らしい)がネット上で話題になっています。 私は遭遇したことがありませんが、着物初心者の中には自分の着姿やコーディネートに自信が持てず、着物を楽しめなくなってしまう人たちもいるようです。 先日ご来店されたお客さまが「歌舞伎座へ行くのに紬はダメなんですよね」とおっしゃるので、びっくりしました。 誰がそんなこと言っているのですか?と聞くと「ネットに書いてありました。紬は労働着だから歌舞伎観劇には向かないって。」 着物は季節や格によって決まりごとがあるから、間違えないようにインターネットで調べるというかたは多いと思います。 でも手軽に得られるネット上の情報がすべて正しいとは限りません。 紬は格が低いとされるのは、農家でくず繭を自分たち用に織ったのが紬の始まりという理由。 しかしながら、それはずっと昔の話です。 そもそも歌舞伎は大衆芸能なのに、なぜ紬はダメなのでしょう。意味がわかりません。 『きもの文化と日本』という本を興味深く読みました。「きものやまと」の社長である矢嶋孝敏さんと経済学者の伊藤元重さんの対談形式になっています。 その中で矢嶋さんが「昔は、染めの着物は値段が高くて上流階級しか着ることができず、庶民は織りの着物だったため、染めは織りより格上となったのだろうけれど、いずれにせよ過去の話」とあります。 着物のルールを書いた本にはたいてい、結婚式に紬を着てはいけないと書いてありますが、着物スタイリストの石田節子さんは結婚式にも紬を着て行きますとおっしゃっていました。 吉祥柄の帯や小物を合わせたり、お祝いの気持ちを表す装いなら、構わないかもしれません。 着物の店を銀座に持っていたこともある作家の白洲正子さんは、お嬢さんの結婚式にお気に入りの作家に染めてもらった梅の柄の御召しに金の帯を合わせて出席したと、お嬢さんが本で書いています。 白洲正子さんだからできることであって、新婦の母親が黒留袖以外を着るのはなかなか勇気が要ると思いますが…。 とはいえ伝統とかルールとか思い込んでいることが、実は近代になってからの決まり事だったりするのです。 「いまの着物のルールなんて、たかだかこの40年ぐらいのもの」と矢嶋さんは指摘されています。 たとえば江戸時代半ばまでは帯の結び目は前や横にあったりしたのが、世の中が平和になると今のように太い帯になり、後ろで結ぶようになりました。 お太鼓結びが登場したのは江戸末期。辰巳芸者が亀戸天神の太鼓橋に似せて結んだのが始まりといわれます。 従来の丸帯は重くて結びづらいので大正7年に袋帯が生まれます。名古屋帯が考案されたのが大正3年なので、袋帯のほうが後なのですね。 さらに驚くのは、訪問着は大正4年に三越百貨店が発明したのだそうです。 フォーマルでもなくカジュアルにも寄り過ぎない着物。 欧米で上流階級が外出するときに着るビジティングドレスを直訳したものとか。 とすれば一般庶民に必要なのか、どこへ誰を訪問するの?という疑問が出てきますが、要はワンランク上の生活を夢見る提案なのではないかと。 着物の入門書には必ず、留袖、訪問着、付下げ…と着物の格について載っていますが「あんな序列は、きもの業界の策略に近い」と矢嶋さんはばっさり。 周りに不快感や違和感を与えるのも困りますが、いまのルールは絶対ではないということを頭の隅に置いておけば、間違いを怖がらずに着物を楽しめるのではないかしら。 紬で歌舞伎座、まったく問題ないですよ! 10月歌舞伎座、11月平成中村座(浅草です!)は十八世中村勘三郎七回忌追善公演 です。 中村屋ファンの皆さま、こちらの鼻緒をお好きな草履に挿げて、歌舞伎観劇はいかがでしょうか。 ▲
by TomitaRie
| 2018-10-03 18:31
| 下駄・草履・和装のこと
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浅草辻屋本店 下駄屋.jp
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